インタラクティブ・フィクションの信頼できない語り手は、どこまで惑わせてよいか――物語上の判断と操作結果を分けて書く
信頼できない語り手は「扉は二度と開かない」と断言してもよい。ただし、操作結果のフィードバックでは、かんぬきを抜いたのか、今どこにあるのかを明示する必要がある。語りとフィードバックの役割分担表を使えば、語り手の偏見を残しながら、プレイヤーが自分の行動を確認し、振り返れるようにできる。

はじめに
信頼できない語り手は、動機や危険、未来についてのプレイヤーの判断を誤らせてもよい。一方、必要な操作結果のフィードバックでは、直前の指示が実行されたか、どこまで進んだか、物にどんな変化があったかを伝えなければならない。語り手が「あの扉は二度と開かない」と言っていても、フィードバックには「かんぬきを抜いた」と明記できる。謎は扉の向こうに残してよい。かんぬきを抜く動作が完了したかどうかまで、謎にしてはいけない。
推敲するときは、まず動作の事実だけを独立して書き、その後で語り手に解釈させる。以下では「語りとフィードバックの役割分担表」を使い、一連の作業を進めていく。場面、人物、動作の結果はすべて解説用の架空の設定であり、実際のユーザー事例、実測結果、試遊テスト、DramaForkの製品機能を説明するものではない。
1. 次の行動のために何を知る必要があるかを決める
プレイヤーは古い屋敷の扉の前にいる。扉の内側には、かんぬきが横向きに差し込まれている。「かんぬきを抜く」を選び、その動作は完了した。かんぬきは右手にあり、扉はまだ閉じている。まだ押してはいない。語り手はプレイヤーが立ち去るのを執拗に止めようとするが、その理由は明かさない。
元の原稿はこうなっている。
あなたは冷たい鉄をつかむ。無駄なことはやめろ。あの扉は二度と開かない。あなたには何ひとつ変えられなかった。
問題は最後の一文にある。「何ひとつ変えられなかった」は、運命を変えられなかったという意味にも、かんぬきを抜くのに失敗したという意味にも取れる。これでは、次に扉を押すべきか、もう一度かんぬきを引くべきか判断できない。作者が疑わせたいのは脱出の望みなのに、文章は物の状態まで曖昧にしてしまっている。
まず、具体的に問い直そう。この文章を読んだプレイヤーは、もう一度かんぬきを抜く必要があるかどうか分かるだろうか。分からないなら、操作の事実を補う必要がある。扉の先に出口があるのか、語り手はなぜ恐れているのか、扉を押すと危険を招くのかは、引き続き隠しておいてよい。
2. 一つの行動を4列の役割分担表に整理する
最初に「実際の動作」、次に「プレイヤーが確認できる事実」を埋め、最後に語りを書く。この順序なら、雰囲気のある一文を先に作り、それに合わせて実行結果を変えてしまうのを避けられる。以下は、同じ架空の場面で続けて起きる手順である。後半の二つは、改稿がその後の行動にも対応できるかを確かめるために使う。
| 実際の動作 | 語り手の判断 | プレイヤーが確認できる事実 | 混同してはいけない表現 |
|---|---|---|---|
| かんぬきを抜き、右手に持つ | あの扉は二度と開かない | かんぬきは溝から抜けている。扉は閉じたまま | 抜いた結果を「無駄だった」で置き換える。かんぬきがまだ溝に収まっているとほのめかす |
| 左手で扉を押し、外向きに少し開く | 扉はあなたをおびき寄せているだけだ | 扉を押す動作は実行済み。隙間ができている | 「開くべきではなかった」を「開かなかった」と書く |
| かんぬきを足元の地面に置く | とうとう最後の守りを捨てたな | かんぬきは手を離れ、足元にある | 紛失していないのに「二度と見つからない」と書く |
この4列は作者の作業用であり、すべてをプレイヤーに見せる必要はない。使い回す際は、1行につき一つの動作と、その直接的な変化だけを記録する。「かんぬきを抜く、扉を押す、外へ出る」を1行に詰め込むと、どこまで完了し、何がまだ起きていないのかを示しにくくなる。
また、「プレイヤーが確認できる事実」は、作者が知っている秘密の一覧ではない。ここに書くのは、次の操作を判断するのに十分な事実である。扉の向こうの仕掛けまで明かす必要はないし、かんぬきが抜けたからといって、扉が開くと先回りして保証してもいけない。障害を一つ取り除くことと、目的全体を達成することは、別の結果だ。
3. 同じ書体でも、文の形で二つの声を作る
安定して運用しやすいのは、フィードバックを「動作の対象+完了状況+現在の位置または状態」という形に統一し、評価、推測、予言を語り手に任せる書き方だ。色や書体を変えなくても、言葉遣いで情報の種類を示せる。
たとえば、次のように改稿できる。
【動作】かんぬきを抜き、右手に持っている。扉はまだ閉じている。
【語り】あの扉は二度と開かない。あなたはこの家から、取るに足らない棘を一本抜いただけだ。
ここでは、語り手の断言をあえて残している。信頼できない語り手だからといって、すべての文に「かもしれない」を付ける必要はない。境界を作るのは弱気な口調ではなく、一貫した役割分担である。プレイヤーはその予言を信じても、次に扉を押して予言が正しいか試してもよい。ただし、かんぬきを抜けたかどうかを推測する必要はない。
明示的なラベルが物語の流れを妨げるなら、短いフィードバックを先に置き、段落を変えて語りを書く形に統一してもよい。初めて使うときに、二つの段落の役割を説明しておく。その代わり、区別は読み慣れに左右されやすくなる。途中で順序を入れ替えたり、フィードバックに突然「抜けたようだ」「手に入れたらしい」といった表現を使ったりしないこと。
感覚の不確かさを表したい場合は、確認する範囲を狭める。たとえば暗闇で手探りする場面なら、かんぬきを手に入れたと断定せず、「かんぬきの溝に手を差し入れたが、中の物はまだ確認できていない」と書ける。フィードバックが確認するのは、実際に完了した部分だけである。起きていないことや未確認のことまで、答えを補ってはいけない。
4. 未実行、失敗、完了をそれぞれ明示する
「指示を受け付けた」と「動作が完了した」は置き換えられない。場面の設計上、本当に後から動作するのであれば、「かんぬきを抜くことを選択した。動作はまだ実行されていない」と書く。「かんぬきを抜いた」と書けるのは、実際に完了してからだ。先に完了形で安心させておいて、実行されていなかったことを語り手の嘘として処理してはいけない。
別の架空の分岐で、かんぬきが引っかかって抜けなかった場合は、こう書ける。
【動作】かんぬきを引いたが、抜けなかった。かんぬきは溝に収まったままだ。
【語り】ほら、自分の主人を分かっている。あなたはその主人ではない。
失敗した事実は明確でありながら、語り手は物理的な引っかかりを拒絶として解釈できる。プレイヤーはこれを受けて、かんぬきの溝を調べることを選べる。「拒まれた」としか伝えられなければ、指示が実行されなかったのか、動作が失敗したのか、作者が一時的に進行を止めているのかを区別できない。
フィードバックがひそかに結論を付け加えるのも、境界を越える書き方だ。「かんぬきを抜いた。これでもう安全だ」という文では、前半が操作を確認し、後半が状況を保証している。しかし、両者に必然的な関係はない。安全であることが、この時点で確定していて伝える必要のあるルールでない限り、後半は削るか、安全についての語り手の主観的な評価に書き換えるべきだ。
5. 語り手の言葉が事実と異なると分かっても、行動の履歴は残す
役割分担表の続きを最後まで進めよう。プレイヤーが扉を押すと、少し開く。語り手は「扉はあなたをおびき寄せているだけだ」と言い換える。プレイヤーがかんぬきを置くと、フィードバックは足元にあると伝える。これで「二度と開かない」は場面の中で否定されたが、かんぬきを抜く、扉を押す、かんぬきを置くという三つの行動は、すべて有効な事実として残る。語り手の言葉が事実と異なると分かって変わるのは、語り手への理解であり、過去の操作が起きたかどうかではない。
原稿を渡す前に、語りの段落を一時的に隠し、フィードバックだけを読んでみる。何をしたか、完了したか、物はどこにあるか、まだしていない手順は何かを、順に答えられるか確認する。次に語りだけを読み、偏見、誘導、隠蔽を表しているか、動作を確認する唯一の情報になっていないかを確かめる。これは原稿の点検方法であり、これを根拠にプレイヤー体験を検証済みだと主張することはできない。
この役割分担は、持ち物や行動を追う必要があるインタラクティブ・フィクションやテキストアドベンチャーに向いている。身体感覚や記憶を意図的に歪ませる作品でも、より狭い範囲で一貫した境界を残すべきだ。たとえば、入力は受け付けられたが、語られた結果はまだ確認されていないと明示する。同じ種類のフィードバックを、あるときは事実、あるときは嘘として扱うなら、見分けるための取り決めが必要になる。最終的には、プレイヤーがこう言える状態を目指したい。「かんぬきを抜いたのは確かだ。語り手がなぜ扉は開かないと言い張るのかは、まだ分からない」。






