テキストアドベンチャーの動作は完了したのに、なぜまだ「〜しようとしている」?叙述を動作の到達点に合わせる
封筒がすでにポストの中に落ちたのなら、本文でプレイヤーを手を離す前に置き去りにはできません。動作の到達点を整理する表で、実際の段階、中断の可否、完了した範囲、次の入力の起点をそろえ、準備・進行・完了それぞれの応答を書き分けます。

はじめに
動作が完了したら、応答ではまず完了を伝え、次の入力をその後に置きます。「今まさに〜しようとしている」は準備段階には使えますが、投函の完了を伝える文章で、現在の投函動作を説明する表現としては適切ではありません。推敲では、プレイヤーが再び入力できる時点で封筒がどこにあり、その手でまだ何を変えられるのかを先に決めてから、言葉を選びます。
ここで扱うのは一つだけです。同じ動作への応答の中で、準備・進行・完了の表現をそろえること。判断の基準は、その動作が実際にどこで止まっているかであり、どの言葉のほうが情景を思い浮かべやすいかではありません。
1. 「〜しようとしている」を直す前に、動作の到達点を決める
以下の投函場面は、解説のために作成したオリジナルの架空例です。実際のユーザー事例、実測結果、DramaFork の製品機能ではなく、特定のエンジンにも依存しません。三つの文章は独立した執筆案であり、一度の投函で順番に発生する三つのターンではありません。
設定は単純です。プレイヤーが「手紙をポストに入れる」と入力し、このターンではすでに封筒がポストの中へ落ちるところまで実行されています。封筒は手元になく、投函口から直接取り戻すこともできません。ところが、元の文章はこうなっています。
あなたは今まさに手を離そうとしている。封筒が投函口をかすめる。ポストの中からかすかな音がし、雨水が手の甲を伝い落ちる。このまま手紙を入れますか、それとも手を引っ込めますか?
問題は、「手を離そうとしている」とポストの中の音が並んでいることだけではありません。末尾でも投函をまだ決めていないこととして扱っているため、読者は手紙をまだ持っていると思うかもしれません。「手を引っ込める」も曖昧です。何も持っていない手を戻すことと、手紙ごと引き戻すことでは、結果が違います。
この例では、次のように直します。
封筒はポストの奥へ落ちた。投函は完了した。開いた手は投函口の外にとどまり、雨水が手の甲を伝い落ちる。今は、何も持っていない手を引っ込めるか、ポストの外側を調べることができる。
この修正では、物の位置、動作の結果、次の入力が始まる状態を同時に明らかにしています。「〜しようとしている」を「すでに〜した」に置き換えるだけで「このまま手紙を入れる」を残しては、応答全体を直したことにはなりません。
2. 動作の到達点を整理する表を基に、表現を選ぶ
ここでいう「動作の到達点」とは、叙述が終わり、プレイヤーに入力の機会を戻す時点で、動作が実際にどこまで進んでいるかを指します。物語の時計が示す時刻ではありません。「〜しようとしている」「〜している」「すでに〜した」といった表現は動作の段階を示しますが、言葉一つでプレイヤーが介入できると判断できるわけではありません。
まず事実の欄を埋め、その後に表現の欄を埋めます。下の三行は、それぞれ独立した案です。進行中の案では、手がまだ封筒を挟んでおり、一時停止できる入力時点を追加で設けています。
| 実際の段階 | 使用する表現 | 中断できるか | 完了した部分 | 次の入力の起点 |
|---|---|---|---|---|
| 準備:手紙は手元にあり、まだ投函口に入っていない | 〜しようとしている、まだ〜していない | 投函を取りやめられる | 手を投函口の前まで上げた | 投函するか、手紙をしまうかを選ぶ |
| 進行:封筒の先端が投函口に入り、後端はまだ手で挟んでいる | 〜している、差し入れたがまだ手を離していない | この案では一時停止や引き戻しが可能 | 封筒の先端を差し入れた | 手を離すか、封筒を引き抜くかを選ぶ |
| 完了:手紙はポストの中へ落ち、手には何も持っていない | すでに〜した、〜した、完了した | 今回の投函を中断することはできない | 投函全体が完了した | 何も持っていない手を戻すか、ポストの外側を調べる |
中断の可否は、具体的な到達点に即して記入します。封筒がすでに手を離れて落下中なら、動きが続いているとは書けます。しかし、それを理由に「手を離すのを取り消す」という選択肢は出せません。動作に続きの動きがあることと、先ほどの決定を撤回できることは別です。
完了の範囲も、今回の動作に限られます。「投函した」からといって、受取人に届いたとは限らず、読まれたことにもなりません。表に書く完了範囲をここまでにとどめ、一度の完了通知で物語の展開全体を先取りしないようにします。
3. 三つの段階を、それぞれ次の行動につながる文章にする
準備段階なら、次のように書けます。
あなたは手紙を投函口の前まで持ち上げ、今まさに入れようとしている。指はまだ封筒をしっかりと挟んでいる。今すぐ投函することも、ポケットに戻すこともできる。
ここでは「入れようとしている」が、動作の直前であることを示し、後の文が選択の余地を明確にしています。ただし、プレイヤーが明確に投函を命じたのに、作者が毎回準備段階で止めれば、確認を一回増やすことになります。このためらいをプレイヤーに委ねる意味があるときだけ、この停止点を残します。
進行中なら、次のように書けます。
あなたは手紙を投函口へ差し入れている。封筒の先端は中に入ったが、後端はまだ指の間にあり、手は離していない。今なら指を開くことも、封筒を引き抜くこともできる。
長い動作の途中で入力の機会を戻すには、「何を済ませたか」と「何をまだしていないか」を書き、登場人物の状態が実際に次の選択を許すようにする必要があります。この案は、手がまだ封筒を挟んでいるところで止めています。「あなたは投函している」だけでは、手を上げているのか、差し入れているのか、封筒が落ちているのか、プレイヤーには判断できません。
完了段階には、先ほどの修正版を使います。手紙は中に落ち、手には何も持っておらず、その後の行動はここから始まります。この時点でプレイヤーが「手紙を取り戻す」と入力しても、手を離す前に引き戻す行為としては解釈できません。この例の設定では、手紙はすでに中へ落ちており、投函口から直接取り戻せないことを説明します。別の方法を探すかどうかは、新たな行動の問題です。
三案の選び方は、細かくすればよいというものではありません。準備版は最後の決断を残し、進行版は途中の判断を明示し、完了版は明確な指示に直接結果を返します。途中に判断する価値のある違いがある場合に限り、入力時点を分ける意味があります。
4. 雰囲気の描写も同じ「今」にそろえる
完了を伝えた後でも、スローモーションのような描写は使えます。ただし、振り返りと現在の状態を区別します。たとえば「封筒はすでに落ちた。あなたは今まさに手を離そうとしており、遠くで鐘が鳴る」では、二文目が現在の身体動作を完了前へ戻してしまい、次の入力の基準が不安定になります。
手を離した瞬間を振り返る必要があるなら、こう書けます。「先ほど手を離したとき、遠くで鐘が鳴った。今は手紙がポストの中に落ちており、あなたの手はまだ投函口の外にとどまっている」。「先ほど」で回顧を示し、入力の機会を戻す前に「今」へ戻ります。振り返る必要がなければ、鐘の音と何も持っていない手を直接描くほうが文章は引き締まります。
完了を描く段落から、進行を表す言葉を機械的にすべて消す必要もありません。「手紙は投函した。雨は強くなっている」は矛盾しません。完了したのは投函で、続いているのは雨だからです。「あなたはまだ投函口を見つめている」も、手紙を手に持っていると示唆しない限り成立します。
一文ずつ確認し、段階を示す各表現がどの動作にかかっているのかを確かめます。同じ段落に、完了した投函と続いている凝視があってもかまいません。次の入力が、手紙はすでにポストの中にあるという状態から始まればよいのです。
5. 次の入力から応答全体を点検する
実際の推敲は四段階で進められます。まず現在の事実を平易な一文にし、それを基に到達点の表を埋め、本文の段階表現を直し、最後にすべての後続の案内がその到達点から始まっているかを確認します。この順序を逆にしてはいけません。美しい一文を残すために動作の結果を変えてしまいかねないからです。
完了版なら、事実を記す文は「手紙はポストの中にあり、手には何も持っていない」です。これに従い、現在を描く「手を離そうとしている」を削り、雨水の描写は残し、「このまま手紙を入れる」を完了後にできることへ変えます。そのうえで「続ける」「引き戻す」「調べる」という三つの入力をそれぞれ当てはめて考えます。続けても同じ手紙をもう一度投函してはいけません。引き戻そうとしても手に持った状態へ戻してはいけません。調べても、理由なく手紙を再出現させてはいけません。
これは机上で文章を推敲する方法であり、すでに実施したインタラクションテストではありません。実際の動作段階すら決まっていないなら、作者は先に停止点を決める必要があります。言葉の置き換えで、その判断を代行することはできません。
この方法は、ターンの終わりに入力の機会を戻す動作の応答に適しています。一つの行動が物語内の時間をどれだけ消費するかは定めず、複数の動作を含む命令の実行リストも扱いません。回想だけの段落なら、物語上の必要に応じて時間を切り替えられます。ただし、プレイヤーが再び行動する時点では、どの「今」に戻ったのかを明示します。原稿を渡す際には、表の該当する一行を残してください。次の編集者も、この時点ですでに何が起き、プレイヤーにはまだ何を変えられるのかを確認できます。






