テキストアドベンチャーで「あなたは恐怖を感じる」と書く前に――感覚描写とプレイヤーに代わって判断することの境界
二人称で登場人物の感情を書くことはできます。ただし、語り手が決めてよい範囲は、プレイヤーが引き受ける役柄の前提と一致していなければなりません。無人の劇場での感情描写を使い、感覚的な根拠、身体反応、感情、行動の意図を一文ずつ分け、繰り返し使える二人称の境界整理表を作ります。

はじめに
「あなたは恐怖を感じる」と書く前に、体験のどの部分をプレイヤーに委ねる作品なのかを確かめましょう。環境は明確に描写でき、事前に示した人物設定はその前提に沿って書けます。一方、まだ定めていない評価や、その場に残るか立ち去るかという意図には、プレイヤーが表現する余地を残す必要があります。推敲の要点は感情を表す言葉を消すことではありません。「何が聞こえるか」「身体がどう反応するか」「どう解釈するか」「何をしようとするか」を分け、それぞれを誰が決めるのか確認することです。
1.この「あなた」について、作者が決めてよい範囲を示す
二人称の語りは、プレイヤー自身を物語に重ねてもらうためにも、すでに性格のある主人公を演じてもらうためにも使えます。両者では、語り手が決めてよい範囲が異なります。人物像が固定された主人公なら、作者が恐怖を設定し、それにどう対処するかをプレイヤーに委ねられます。態度をプレイヤーに委ねる主人公なら、経歴と任務だけを定め、今この瞬間の感情はプレイヤーに任せることもできます。
以下の無人の劇場、主人公の林岑(リン・ツェン)、およびすべての文章は、架空の教材用の例です。実際のユーザー事例、測定結果、試用テスト、DramaForkの製品機能ではありません。境界整理表は、作者が手作業で文章を推敲するための資料です。
まず、この例での役柄の前提を一文で示します。「あなたは公演パンフレットを取り戻しに来た林岑を演じ、自分の足音の反響が突然聞こえると彼女の指には力が入りますが、劇場をどう捉えるか、先へ進むかどうかはプレイヤーが表現します」。この手の反応は本例で明示した設定であり、人間一般に当てはまる法則ではありません。
この前提は、人物紹介か、それ以前の物語に反映させておく必要があります。プレイヤーから異議が出て初めて「もともとこういう人物だから」と説明するのでは遅いのです。作者は先に前提を決め、本文、選択肢、その後につながる文章をそれに沿わせます。
2.元の段落を5列の境界整理表に分ける
推敲する元の文章は次のとおりです。「あなたは無人の劇場に足を踏み入れる。足音が客席の間に響く。指に力が入り、怖くて逃げ出したくなる。ここでは歓迎されていないと、あなたにはわかる。残ったところで、ただの強がりだ」。この文章は、音、反応、感情、意図、自己評価をつなぎ、一つの確定した結論にしています。
まず、個別に判断できる短い文に分けます。感覚的な根拠の欄には、その場面で実際に示されている音、触覚、目に見える現象だけを記入します。根拠がなければ「なし」とし、演出したい雰囲気を書き込まないようにします。
| 元の表現 | 感覚的な根拠 | 事前の人物設定 | 語り手が決めている判断 | 書き換え案 |
|---|---|---|---|---|
| 足音が客席の間に響く | 自分が足を下ろした後に音が返ってくる | 感情の設定は不要 | なし | あなたの足は止まったが、反響はまだ客席の間に残っている |
| 指に力が入る | 指の関節と手のひらの感覚 | この音を聞くと指に力が入るという前提がある | この文だけでは感情を指定していない | 指に力が入り、爪が手のひらに押し当たる |
| 怖くて逃げ出したくなる | 反響と手の反応 | この版では恐怖も逃げる意図も固定していない | 恐怖、立ち去りたい気持ち、両者の因果関係 | 背後の出口はまだ開いている。立ち去るかどうかは選択に委ねる |
| ここでは歓迎されていないとわかる | 意図を確定できる根拠は示されていない | なし | 劇場が自分を拒んでいると判断し、感じたことを知識として提示 | 舞台の幕は下りたまま。あなたの足音に応える人はいない |
| 残ったところで、ただの強がりだ | なし | なし | 残る動機を一つに限定し、否定的に評価 | 評価を削り、先へ進む行動を提示する |
表の「指に力が入る」を残せるのは、この例ではその反応をあらかじめ定めているからです。身体反応を設定していない作品なら、この表現も検討の対象になります。筋肉の動きなら自動的に語り手が決めてよい、ということではありません。
記入するときは、「だから」「思わず」「ただ〜したい」「本当は」といった言葉に特に注意してください。分けたはずの層を再び結びつけることがあります。「怖いけれど、やり抜こうと決意する」も、感情、決断、行動の意味を同時に指定しています。
3.態度を委ねる版を書き、選択後のつながりを確認する
境界整理表をもとに、段落全体を次のように書き換えられます。
あなたは劇場の中央で立ち止まる。最後の一歩の反響が無人の客席を渡り、なかなか消えきらない。指に力が入り、爪が手のひらに押し当たる。前方では、幕が舞台の縁まで垂れている。背後の出口はまだ開いていて、外の光が通路に落ちている。公演パンフレットは、まだ舞台脇の机の上にある。
続けて、「舞台脇の机へ行き、パンフレットを取り戻す」「その場にとどまり、もう少し耳を澄ます」「通路を戻り、外へ出る」を提示します。これらは次の行動をプレイヤーに委ねる選択肢です。進むことを勇気、待つことを恐怖、立ち去ることを負けを認めることとは決めていません。
この場面で態度も明示してもらう必要があるなら、今をどう捉えているかを別に尋ねられます。「反響を聞くと不安になる」「音がどう返ってくるのか確かめたい」「気になるのはパンフレットを取り戻すことだけだ」などです。これは本例で用意した表現の範囲であり、あり得る感情をすべて網羅してはいません。これを根拠に、プレイヤーには無限の自由があると主張しないでください。
感情表現と行動を強制的に組み合わせることも避けます。不安を選んでも舞台へ進めますし、反響を調べたくても、いったん外へ退くことはできます。その後の文章は、実際に選ばれた内容を受けて書きます。立ち去ることだけを選んだなら「あなたは外へ戻る」とし、「あなたはようやく、自分が怖がっていると認めた」と補ってはいけません。
4.固定された主人公は怖がってよい。ただし恐怖だけで次の行動は決まらない
主人公ならではの強い語り口を保ちたい作品では、人物像を固定する版として、別の前提を設けられます。「林岑は無人の劇場を怖がり、中に入ると恐怖を感じます。パンフレットを取り戻しにそのまま進むかどうかは、プレイヤーが決めます」。この前提は場面に入る前に示します。そのうえで、次のように書けます。
反響が無人の客席を抜けていく。あなたの指に、また力が入る。ここが怖い。入る前に認めたとおりだ。パンフレットは舞台脇にあり、出口はまだ背後にある。あなたはまだ、次の一歩を踏み出していない。
この版は恐怖を直接書いていますが、逃げる意図までは決めていません。作者が「逃げ出したい」という衝動も固定したいなら、それを人物設定に明記し、その衝動に従って行動するかどうかをプレイヤーに委ねられます。ただし、その場合に「立ち去りたいと思ったことはない」という選択肢を出すと、役柄の前提と矛盾します。
感情を固定すれば人物の一貫性を保てますが、プレイヤーがその瞬間の体験を形づくる範囲は狭まります。態度を委ねれば解釈の幅が広がりますが、作者は音、空間、動作で場面の迫力を保たなければなりません。どちらを選ぶかは、この作品で誰を演じ、何を決めてほしいのかによります。
力のある文体に、感情の断定は必須ではありません。「反響が無人の客席を渡り、なかなか消えきらない」は、文章のリズムで音を長く感じさせます。出口と舞台を同時に見せれば、残るか去るかが目の前の方向として現れます。比喩も使えますが、「劇場全体があなたを憎んでいる」を確定した事実として書けば、またしても人物と場所の関係を語り手が決めることになります。
5.提出前に、相反する態度をつなげて語り手が範囲を越えていないか確かめる
推敲が終わったら、同じ段落の後に「とても怖い」「少し好奇心が湧く」「用事だけ済ませたい」をそれぞれつなげてみます。態度を委ねる版で、語りを覆さずにこれらを受け止められるなら、残した感覚描写が解釈を先回りして閉ざしていないと判断できます。これは編集上の確認であり、プレイヤーテストではありません。すべての読者が受け入れることの証明にもなりません。
人物像を固定する版は、その版の前提に沿って確認します。恐怖は確定していても、残るか去るかは選べるはずです。「まったく怖くない」を受け入れるために人物設定を消す必要はありません。確認すべきなのは、本文で委ねると約束した部分が、選択肢の文言、動作描写、振り返りの文章で、いつの間にか取り上げられていないかです。
提出時には5列の整理表を残し、役柄の前提、推敲後の段落、選択後につながる最初の一文を添えます。夢、制御を失う場面、行動を強いられる場面では、プレイヤーが決められる範囲を別途明示してください。一度の特殊な展開を理由に、その後の感情すべてを語り手が決めてよいことにはできません。






