インタラクティブ映画のワークフローを企画から始める:脚本家に渡す範囲を1ページで定義する
アイデアを脚本家に渡す前に、観客に何ができるのか、どのルートを成立させる必要があるのか、何が差し戻しの理由になるのかを決めます。1ページの引き継ぎ定義書で、ミステリーの着想を確認可能な開発範囲に落とし込みます。

はじめに
制作に着手する前に、アイデアを1ページの引き継ぎ定義書にまとめ、脚本とルート設計の担当者に渡します。体験として約束すること、最低限必要なルート、媒体、言語、終了条件、対象外項目を明記し、受け入れ判断の根拠を添えます。この段階で確認するのは映画のおもしろさではありません。引き継ぐ人が作品の範囲を推測せずに、定義書をもとに設計を進められるかどうかです。
1. 今回の引き継ぎで決めるのは「何を具体化してよいか」だけ
インタラクティブ映画のワークフローでは、企画段階の「観客自身に謎を解いてもらう」という一言が、人によって違う作品として受け取られがちです。脚本家は複数の容疑者を思い描き、監督は2種類の結末を考え、インタラクションの設計者は自由な証拠収集を計画し始めます。どの解釈も成立し得ますが、ひとつの依頼に混在すると、互いに異なる方向へ引っ張り合います。
入力となる資料は、1文の物語の着想、重要な選択ひとつ、確定済みの制作上の制約だけでもかまいません。企画の発案者は残したい体験を説明し、受け取り側は具体化を妨げる情報の抜けを指摘します。双方で定義のバージョンと未決事項を記録します。成果物は1ページの範囲合意書であり、絵コンテでも予算書でも完成した脚本でもありません。
以下では、架空の小規模なインタラクティブ・ミステリー映画『雨の夜の遺失物ロッカー』を例にします。係員が行方不明者の残した手紙を見つけ、観客は先に預かり記録を調べるか、夜警に話を聞くかを決めます。登場人物、ルート、受け入れ記録はすべて解説のために作ったオリジナルの設定です。実際のユーザー事例、実測結果、製品機能ではなく、DramaFork がこれらの手順を自動実行するという意味でもありません。
この例では「自分で謎を解く」を、「最初にどの種類の証拠を調べるかを選び、その最初の選択が証人の協力にどう影響するかを見る」に絞ります。物語に謎が残っていてもかまいませんが、2通りの最初の調査選択には区別できる結果が必要です。その後、すべての調査を異なる順番で終えることまでは求めません。
2. 6つの範囲条件を同じ定義書に記入する
下の表はそのままコピーして使えます。各項目には、まず約束する内容を書き、次にそれを確認できる資料を示します。未確定の内容には決定者と期限を添え、「後で詰める」だけで済ませないようにします。
| 項目 | この例での記入内容 | 受け入れ時の確認事項 |
|---|---|---|
| 体験として約束すること | 観客が先に記録を調べるか人に聞くかを決め、夜警の協力の仕方が変わる | 2つの選択に異なる反応があり、因果関係を説明できる |
| 最低限必要なルート | 共通の導入から記録調査ルートと聞き取りルートに分かれ、それぞれの締めくくりの場面に至る | 両ルートに入口、選択、結果、到達点が記載されている |
| 媒体 | 横長画面の実写映像を文字の選択肢でつなぎ、選択箇所では一時停止して入力を待つ | 次の段階では映像区間と接続を設計し、自由移動を前提にしない |
| 言語 | 中国語のセリフ、中国語字幕、中国語の選択肢 | 3種類のテキストがすべて脚本の引き継ぎ範囲に含まれている |
| 終了条件 | 重要な曖昧さがなくなってから脚本開発に進む。必須の撮影場所が使えなければ中断し、範囲を定義し直す | 続行、中断、差し戻しをそれぞれ誰が判断するかが明記されている |
| 対象外項目 | 所持品管理、自由な証拠収集、時間制限付き入力、追加言語版は制作しない | ルートの概略図にこれらの要件が暗黙に含まれていない |
ページ上部には「プロジェクト名、定義のバージョン、発案者、受け取り側、日付」、下部には「受け入れ判断、根拠資料の番号、未決事項、担当者、未決事項の解決期限となる工程」を記入します。空欄のテンプレートにはこれらの欄を残せば十分で、この例の撮影形式まで踏襲する必要はありません。
「言語」に書くのは、今回どの表現を担当するかであり、将来対応する可能性のある市場ではありません。「終了条件」は、この段階をいつ終えるか、あるいはこの段階の作業を止めるかを示すもので、登場人物が部屋を出る方法ではありません。観客がたどり着く物語上の出口は、最低限必要なルートにすでに含まれています。
3. 2つのルートで約束を具体化できることを示す
この例では、定義書にルートの概略図ファイルを添えます。ファイル番号は「草図A」です。記録調査ルートは「手紙を発見する→預かり時刻と証言の矛盾が見つかる→記録を示して問い詰める→夜警が誰かのために手紙を保管していたと認める」です。聞き取りルートは「手紙を発見する→先に名前を公表しないと約束する→夜警が自ら預かり票の控えを渡す→係員が次の調査先の住所を得る」とします。
どちらの締めくくりでも、行方不明者が見つかったとはしていません。それぞれ「隠し事を明らかにする」「手がかりを得る」を達成します。この違いが、最初の調査選択についての約束を具体化しています。両ルートとも結局は夜警が同じ住所を口にするだけなら、定義書は「それまでの選択で何が変わったのか」に答える必要があります。答えられなければ、体験の約束に立ち戻るか、結果を書き直します。
さらに、選択前の情報を短く書きます。「記録なら時刻を確認できるが、直接問い詰めると警戒されるかもしれない。先に話を聞くなら、ひとまず秘密を守ると約束する必要がある」。これは決定稿のセリフではなく、脚本家に渡す判断の前提です。この前提がなければ、「記録を調べる」と「話を聞く」は、単なる2つの行き先ボタンになりかねません。
Twineは、インタラクティブで非線形の物語を制作するためのツールです。この例なら、まずテキストのプロトタイプでルートを表現し、その後に撮影の詳細を決めることもできます。今回の受け入れ確認は紙のカードでも行えます。ツールを何にするかによって、定義書が答えるべき問いは変わりません。
受け入れ時には、脚本家が概略図の両ルートをたどり、観客が何を知っていて、何を決め、どのような結果を得るのかをそれぞれ説明し直します。聞き取りルートで預かり時刻を知っている必要があるのに、その情報がもう一方のルートにしか登場しないなら、「聞き取りルートに必要な情報の入手元がない」と記録して追記を求めます。口頭の説明だけで合格にはできません。
4. 受け入れ判断を具体的な資料に結び付ける
この段階では3種類の判断を使えます。「開発可能」は、6つの範囲条件とルートの概略図が互いに裏付け合っている状態です。「限定受け入れ」は、未決事項の影響を受けない部分から執筆してよいという判断です。「差し戻し」は、重要な約束や制約がまだ矛盾していることを示します。署名が意味するのは現在の開発範囲への合意だけです。作品の完成や、観客が必ず満足することを証明するものではありません。
記録例は次のように書けます。「定義B。草図Aと選択の前提Aに基づき、2つの物語ルートは開発可能。夜警の名前は未定で、脚本家がセリフ原稿の作成前に補う」。名前が決まっていなくても因果関係の設計には支障がないので、判断は「開発可能」のままです。一方、遺失物ロッカーの撮影場所を使えるかどうかが未定で、中心となる手がかりをロッカー内の物で示す必要があるなら、「開発可能」とは判断できません。「限定受け入れ」で脚本全体の執筆を認めることもできません。
受け入れの根拠は、少なくとも資料の所在を示し、どの約束を裏付けるかを説明できる必要があります。「全員が理解した」では、後から参加する人が範囲の根拠をたどれません。1ページの定義書と2本の短いルートのほうが、理解の食い違いを明らかにできます。
追加要件も元の項目に反映します。たとえば英語吹き替えを提案するなら、言語の範囲と音声納品の責任分担を同時に見直します。カウントダウンを提案するなら、媒体のルールと選択の前提を見直します。変更の提案者が理由を記し、受け取り側が影響を判断したうえで、新しいバージョンにします。「ついでに追加しておいて」の一言に作業が隠れるのを防ぎます。
5. 範囲を縮小するとき、どの約束を守るか
共通の締めくくりの場面をひとつしか撮れないなら、その前で2つのルートを合流させつつ、証人の態度と手がかりの入手元の違いを残すことができます。その場合、体験の約束を「最初の調査選択によって区別できる2つの結果が生じる」から「最初の調査選択によって協力を得る過程と手がかりの入手元が変わる」に変更し、制作範囲を「2つの締めくくりの場面」から「ひとつの共通の締めくくりの場面」に変えます。減らすのは締めくくりの場面数です。「異なる結果」という元の約束を、「異なる結末」を約束していたかのように書き換えてはいけません。この縮小を受け入れるかどうかは、発案者と受け取り側が共同で定義書に記録します。
過程の違いさえ制作できないなら、まず単一ルートのコンセプト映像を渡して雰囲気や演技を検討し、それではインタラクティブな体験の約束をまだ検証していないと明記する方法があります。別の選択肢は、テキストのプロトタイプを残し、実写撮影を延期することです。物語の因果関係がまだ固まっていないときに適した方法ですが、映画が完成したかのように見せてはいけません。
この定義書にも明確な限界があります。撮影場所の確認、各ショットを撮影できるかの判断、その後の視聴者の反応の確認に代わるものではありません。役割は、アイデアを脚本の段階に進める際に、双方が合意した出発点を用意することです。範囲が成立しないときにも、脚本家に推測を続けさせるのではなく、どの項目を差し戻すべきかを明確にできます。


