ビジュアルノベルの心の声・地の文・セリフを明確に伝える表記ルール
まず、その一文が場面の中で実際に発声されているか、誰に聞こえるかを決め、言葉の出所を示すラベルと表示上の手がかりを対応させます。修理技師が疑念を抱き、小声でつぶやき、相手に質問する架空の短い脚本を通じて、一文ずつ適用できる発声区分のルールを組み立てます。

はじめに
ビジュアルノベルで心の声、地の文、セリフを区別するには、まず各文の出所、場面内で発声されるかどうか、誰に聞こえるかを決め、そのうえで名前欄や文字のスタイルを設計します。心の声が実際の発言に変わるときは、最初に声に出す語の直前でテキストを分け、区分が変わったことを改めて示します。色を変えるだけでは、この説明を担えません。色の違いを見分けられなくても、仲間が返事をできるかどうかは読み取れる必要があります。
以下では、修理技師の林硯が部品を調べ、仲間の阿岑がテーブルの向かいに座っている架空の場面を教材にします。人物、短い脚本、表記ルールはいずれも独自に作成した例であり、実在するユーザーの事例、実測結果、DramaForkの製品機能ではありません。発声の有無と誰に何が聞こえるかをもとに編集上のルールを組み立てるもので、業界共通の慣例だと主張するものではありません。
誰の言葉かを整理し、誰が返事をできるかを判断する
編集責任者は一文ごとに三つの問いを確認します。これは誰の思考、または誰による語りなのか。場面内で音声になるのか。発声されるなら、その場の誰がどの部分を聞いたのか。三つの答えは別々に記録し、名前欄だけで済ませないようにします。
「林硯」という表示は、その文章が誰に関わるかを示すだけで、本人が口を開いた証拠にはなりません。「小声」は声の出し方を表しますが、それだけで阿岑には聞こえないと決まるわけでもありません。テーブル越しの距離、周囲の音、人物の動作が聞き取れる内容にどう影響するかは、その場面で明示する必要があります。作者が書いていない条件を読者に補わせてはいけません。
地の文についても、語りの出所と場面内の音源を区別する必要があります。「部品の縁に傷が一本ある」は、場面の外にいる語り手が説明できます。一方、「この傷を見ると昔の倉庫を思い出す」には、人物の経験が含まれます。本例では前者を選び、観察できる事実だけを記述します。林硯の主観的な判断に踏み込むなら、心の声へ切り替えます。同じ段落の途中で、手がかりもなく視点が変わるのを避けるためです。
六つの項目で発声区分のルールを定める
以下は、この例にそのまま使えるルールです。角括弧内は読者への表示を想定したテキスト上の手がかりです。誰に何が聞こえるかは編集用の記録なので、その欄全体を読者に見せる必要はありません。
| 区分 | 出所 | 場面内で誰に何が聞こえるか | 表示上の手がかり | 切り替え方 | 混同した悪い例 |
|---|---|---|---|---|---|
| 心の声 | 林硯のその時点の思考 | 誰にも聞こえない | [林硯・心の声] | 発声の直前で別のテキスト単位に分ける | 心の声に阿岑が直接返事をする |
| 場面外からの地の文 | 場面内の登場人物ではない語り手 | 誰にも聞こえない | [地の文] | 人物の判断へ移る際にラベルを変える | 地の文が突然「私」として過去を回想する |
| 小声の独り言 | 林硯が実際に発する声 | 聞いた人物と聞き取れた部分を一文ごとに明記する | [林硯・小声の独り言]。必要に応じて実際に何が聞こえたかを補う | 相手に話しかける際に別の単位へ分ける | 独り言は絶対に他人に聞こえないと決めつける |
| 相手への発言 | その時点で話している人物 | 本例ではテーブルを挟んだ二人 | [林硯]または[阿岑]。話しかける相手は本文で示す | 心の声や独り言から移る際に単位を分ける | 思考と質問を同じラベルでまとめる |
別の作品で使うときは、まず六つの項目をすべてコピーし、その作品での出所と聞こえる範囲を書き加えます。最初の三列だけを残すのは避けてください。分類が明確でも、演出担当に渡したときに切り替え方が不足するからです。
色、枠線、フォントで手がかりを強めることはできますが、本例では文字によるラベルを基本にします。ラベルを常に表示すると視覚的な負担は増えますが、途中から読み続ける読者には助けになります。ラベルを減らす作品では、単独でも見分けられる一貫した別の手がかりを設け、プレーンテキストで読み返しても区別が成立するかを確認する必要があります。
短い脚本全体で三つの変化を示す
最初に場面の条件を固定します。二人はテーブルを挟んで座り、阿岑は修理記録をめくっています。林硯はまだ疑念を伝えていません。林硯が小声でつぶやいた際、阿岑には「昔の倉庫」という部分だけがはっきり聞こえます。この聞こえ方は本例の創作上の設定であり、「小声」という表現から推測した結果ではありません。
[地の文]林硯は部品を裏返し、半分ほど擦り減った刻み跡の上で指の腹を止めた。
[林硯・心の声]この刻み跡、昔の倉庫にあった品のものに似ている。阿岑は買ったばかりだと言っていたが、入手先をもう少し確かめたほうがよさそうだ。
[林硯・小声の独り言]昔の倉庫……どうしてここに?
[地の文]阿岑が顔を上げた。はっきり聞き取れたのは「昔の倉庫」という部分だけだった。
[阿岑]今、昔の倉庫って言った?
[地の文]林硯は部品をテーブルの中央へ押し出し、阿岑に向き直った。
[林硯]この部品、誰から買ったんだ?
[阿岑]橋のそばの露店の人からだよ。何か見つけた?
ここでは、阿岑はまず聞こえた言葉を確認し、その後で直接向けられた質問に答えます。「入手先をもう少し確かめたほうがよさそうだ」には反応しません。それは読者にだけ開示された思考だからです。林硯が部品を押し出して仲間に向き直る動作も、これから相手に質問することを示す助けになっています。
物語上、独り言が阿岑にまったく聞こえない必要があるなら、聞こえ方の説明を「阿岑は記録をめくり続けていた。その小声のつぶやきは聞こえなかった」に変え、聞こえた言葉を確認する質問を削除できます。林硯が一人で疑念を抱いている点は強まりますが、仲間が異変に気づく展開は失われます。聞こえる範囲を変えるときは、その後の応答も一緒に修正しなければなりません。
文の途中で声に出すなら、最初に声に出す語の直前で分ける
誤読しやすい下書きの例が、「[林硯・心の声]この刻み跡、もしかして昔の倉庫の……どこで買ったんだ?」です。作者は後半が口をついて出たつもりでも、ラベルは全体を思考として扱ったままです。三点リーダーが示すのは間や中断であり、それだけで発声の有無が変わったことは伝えられません。
「昔の倉庫」から声に出すなら、「[林硯・心の声]この刻み跡、もしかして――」と「[林硯・小声の独り言]昔の倉庫の?」に分けます。最後の質問だけを口に出すなら、それ以前は心の声に残し、「どこで」の直前から相手への発言として別の単位にします。分ける位置は実際に声に出す語で決まり、句点の位置では決まりません。
文法的に完結させるために、二つの区分を一つのテキスト単位へ押し戻す必要はありません。未完の文なら思考が途切れる感覚を残せますし、完結した文なら落ち着いた流れになります。どちらのリズムでも、新しいラベルは切り替え先の本文より先に出します。読み終えてから解釈の誤りに気づく事態を避けるためです。
不自然な応答から、人物が知っている範囲を点検する
原稿を渡す前に、すべての応答へ内部メモを付けます。「どの情報に反応しているのか。それをどう知ったのか」という記録です。本例で阿岑が昔の倉庫について聞き返すのは、その言葉をはっきり聞いたからです。購入先を答えるのは、林硯からの直接の質問を聞いたからです。どちらも本文に根拠があります。
悪い例は、心の声の直後に阿岑が「嘘はついてない。本当に買ったばかりなんだ」と言うものです。まだ伝えられていない疑念を、直接否定してしまっています。表情や様子から疑いを察したことにしたいなら、林硯が刻み跡を何度も調べるなど、目に見える根拠を示し、「それ、何かおかしいと思ってる?」と探るような返答にします。推測を、相手の思考を正確に聞き取ったかのように書いてはいけません。
点検時には色や演出効果をいったん外し、ラベル、本文、応答だけを読みます。それでも発声された文か判断できないなら、文字の手がかりを補います。人物の応答が知っている範囲を超えるなら、応答を直すか、実際に情報が伝わる過程を加えます。後付けの説明で穴を隠さないようにします。
このルールは、その場でのやり取りを明確に伝える必要がある箇所に向いています。夢、テレパシー、声の出所を意図的に曖昧にする語りには別のルールを設けても構いませんが、どこから例外が始まり、誰が何を知ったのかは記録します。出所がまだ明かされていない地の文は、ひとまず[地の文・出所未詳]とし、編集用原稿では語れる範囲を固定できます。[正体不明の声]を使うのは、場面内で実際に声が響いている場合だけです。正体を伏せる場合も、発声されているかどうかの区別は保つ必要があります。






